臼蓋内転骨切り術のスケジュール
寛骨臼移動術のひとつです。寛骨臼移動術とは、臼蓋形成不全(寛骨臼による大腿骨頭荷重部の被覆が不十分)による変形性股関節症に対し、寛骨臼の周辺を骨切りして一塊として移動させ、被覆を改善させる術式です。RAO(寛骨臼回転骨切り術)」が代表的ですが、種々のバリエーションがあります。
RAOなどほとんどの寛骨臼移動術では、切離した臼蓋骨片を外方にある大腿骨頭へ被せて行くように引き出します。この結果、股関節部では寛骨臼による大腿骨頭荷重部の被覆は改善しますが、骨切り部では臼蓋骨片が腸骨よりも外方へ突出し、その下に大腿骨頭が収まります。多くの寛骨臼移動術で術後かなりの期間にわたって荷重制限を要するのは、早期荷重を行うとこの突出部の付け根で剪断力による骨折を起こす恐れがあるからです。
これに対しAAOでは、外へ向きすぎた寛骨臼の開口面を下へ向き直させるように寛骨臼を移動させ、それに伴い大腿骨頭は臼蓋骨片の下へ引き込まれます。この結果、股関節部では寛骨臼による大腿骨頭荷重部の被覆が改善し、また臼蓋骨片は上の腸骨と下の大腿骨頭とでサンドイッチされ、骨折を起こす剪断力の元となる外方への突出はほとんどありません。
股関節の形態異常の目安となる線がいくつかあります。形成不全性股関節症では通常、Shenton線もCalve線も破綻しており、RAO原法ではいずれも改善せず、ERAOではShenton線が改善します。AAOではこれに加えて、Calve線も正常化します。
ただし、股関節周辺の形態によっては、Calve線の正常化を求めすぎると大腿骨頭が内方化し過ぎてcoxa profundaさらにはprotrusio acetabuliとなりfemoroacetabular impingementを引き起こす危険もあります。つまり形態に応じて限界もあります。当センターの特診に御予約いただければ、来院時に撮影するご本人のX線写真を元に、わかり易く図示してご説明致します。
臼蓋形成不全による変形性股関節症が全てRAOやAAOなど寛骨臼移動術のよい適応となるわけではなく、進行期や末期など病期が進行した股関節症では成功率は下がります。大腿骨頭や臼蓋に骨嚢胞がある場合や、高年齢、高度肥満、骨粗鬆症なども危険因子となります。寛骨臼移動術にも種々あり、大腿骨の骨切り術を併用すべき場合もあり、適応も一様ではありません。人工股関節置換術か何らかの骨切り術か保存療法か、個々の状況に即して長短やリスクをご説明し、検討していただくことになります。その結果もし、臼蓋内転骨切り術を受けると決断された場合、改めて当センターへご連絡いただき、以下の日程を調整のうえ全て予約していただきます。
まず、手術予定日の1か月〜1週間前の平日午後に1回来院していただき、術前検査として心電図、採血、検尿、X線撮影、股関節CT検査、呼吸機能検査を行います。次に翌日以降の平日午前、特診外来にて術前評価を行い、問題がなければ手術の同意書など書類一式をお渡しし、400mlの自己血採血1回による貯血式自己血輸血を行います。遠方の方は、平日の午後来院して術前検査を行い、近隣のホテル等に1泊して翌朝の特診外来に受診されれば、通院の往復は1回で済みます。思想・信条・宗教上の理由で術前貯血式自己血輸血を行えない方は、術中回収血輸血のみで手術を行う方法について御相談に応じます。
当科では、両側同時寛骨臼移動術も適応を選んで行っています。始めて日が浅く、適応はなお模索中ですが、現在は主に〔痛い側:初期+対側:進行期〕以上で局所の骨萎縮なく、体重50kg以内、年齢40歳未満、大腿骨などに高度の変形がない場合に限定しています。やはり御来院いただいて個々の状況に基づいてご相談となります。両側同時の場合は、術前には通常400mlの自己血採血2回(合計800ml)による貯血式自己血輸血を行います。したがって、術前の診察と検査が終わってから入院までに、通常2回来院していただくことになります。またその際に、術後に使用する特殊なサポーターを採型します。遠方の方は、平日の午後来院していただいて術前の検査を行い、近隣のホテル等に1泊していただき、翌朝の特診外来でご説明や術前臨床評価を行い、引き続いて自己血採血を行えば、通院の往復は1回節約できます。思想・信条・宗教上の理由で術前貯血式自己血輸血を行えない方は、両側同時手術の適応としておりませんので、片側ずつとなります。
寛骨臼移動術は原則として月・火曜日に行っており、入院は手術前日の午後もしくは当日の朝となります。付き添いの方に病院にいていただきたいのは手術の1時間ほど前から術後ご説明するまでだけであり、夜間等の付き添いは完全看護のため必要ありません。付き添いをご希望になる場合は予めご相談ください。
片側の場合、手術室へは前の手術の関係で14〜15時頃に入室することが多く、執刀時間は1時間強、手術室入室から退室までには2.5時間程度かかります。術中回収血輸血は行いません。
両側同時骨切り術の場合は、手術室へは12時頃に入室します。執刀時間は左右合計3時間程度、退室までには4.5〜5時間程度かかります。術中回収血輸血を行います。両側同時予定であっても、片側が終わって対側へ移る際に危険と判断した場合は、片側のみで終了する可能性があります。
手術では内部は強固に縫合しますが、表皮は縫合せず、治癒を促す特殊なフィルムで被覆し更に防水フィルムで保護しますので、3~4日後に術創部を確認する以外に創部に触れることは通常なく、消毒処置や抜糸抜鉤の痛みを少なくしています。また大きな問題がなければ早々にシャワーが使えるようになります。
力学的にはすぐに全荷重を可能としたAAOですが、生物学的には問題があります。片側例で前〜初期、肥満でなく骨萎縮も見られなければ、標準のクリティカルパス通りのスケジュールとなります。手術の翌日は痛みもありグロッギーのことが多いため、ベッド上で座るまでとし、術後2日目に荷重歩行のリハビリテーションを開始、励行します。しかし、術後3か月目までの間は活動中に壊された関節軟骨を修復する能力が落ちており、あまり頑張り過ぎると股関節症が進行してしまいます。そこで、術後すぐに荷重を励行するのは、あくまで骨切り部分が安定して可動域訓練(ROM訓練)を開始できるようになるまでの短期間に限ります。術中の状況などにより判断するため一概に言えませんが、早くて1週間〜遅くて4週間で荷重励行はいったん終了しROM訓練へ移行します。そして手術創部が治癒していれば退院となります。
巨大臼蓋骨嚢胞がある場合や、進行期以上例、高度肥満例、高度骨萎縮例、高年齢の場合などでは、AAOといえども早期荷重開始はリスクが高く、当初より1〜2.5か月の入院リハを計画する場合があります。
両側同時寛骨臼移動術の場合は、手術時のみならず術後のリスクも明らかに高いことがわかってきたため、現在では当初より長期間の入院リハを計画することにしています。しかし、あまり長期の臥床は骨や軟骨の萎縮を招いて逆にリスクを高めるため、個々の症例に即してオーダーメイドのリハビリスケジュールを策定することになります。
退院後は、標準的には術後1〜3か月目の2か月の間に1度、X線撮影し経過を確認します。問題なければ以後は年に1度程度のX線経過観察となります。何らかのリスクの高い方はより頻回にチェックを重ねることになるでしょう。
初期の荷重励行期間を過ぎて術後3か月経過するまでの方は、むしろ荷重歩行は控えめにし、修復が十分に行われない期間になるべく関節軟骨が磨り減らないように庇いながら、ROM訓練を励行することが重要です。ジムでのストレッチやヨガは良いリハビリテーションとなりますし、術後の痛み止めなどの服薬が終了して1か月経過すれば子作りも可能です。
術後3か月経過すれば、荷重制限の必要は通常ありません。しかし、進行期例や、巨大な荷重部骨嚢胞がある症例、高度骨萎縮例などでは、杖の使用をお勧めする場合もあります。また、ジョギングやランニングなどはいわゆるランナーズ・ハイになることもあり病み付きになり、毎日数km走らずにいられなくなるかもしれません。骨切り術により股関節の被覆を改善したとはいえ、正常そのものになったわけでは決してなく、強く頻回の衝撃や負荷が加われば股関節症の進行の確率は高まりますので、そのようなスポーツは術後もとてもお勧めできません。1回きりの人生において、股関節の寿命を優先するか、やりたいことを優先するかは最終的にはご自分で判断していただくことですが、その判断の拠り所として、現状と予後の見通し、対応策などについても状況に応じて情報をご提供します。



